同じ地球の上に生きている。野生動物と人間の関係を考えさせられる記事

フクロウナビ編集部

スーパーには加工された肉や魚が並び、テレビやインターネットにはかわいい動物の「癒やし系」動画が溢れている。自然から切り離された生活を送っていると、ついつい地球は人間中心に回っていると錯覚してしまいがちだ。しかし実際はそうではない。自然の中で生きる動物たちも、同じ宇宙船地球号の乗組員なのである。今回は、野生動物と人間の関係をグローバルな視点で考えさせられる記事をいくつか紹介してみよう。

記事をおすすめした人

フクロウナビ編集部

日々さまざまな分野の研究成果や学術知に触れるフクロウナビ編集部員たちが、それぞれの興味や関心をもとにテーマを立てて、おすすめしたい記事を紹介します。

マダガスカル、森を育てるキツネザル

人間の営みと野生動物は思わぬところで繋がっている。たとえば、京都大学の佐藤宏樹先生が研究するのは、生物多様性のホットスポットであり、世界の最貧国のひとつでもあるマダガスカルのキツネザル、植物、そして人間の関係だ。佐藤先生によると、キツネザルは森を育てる役割を担っているという。一体どういうことかと思うが、キツネザルが植物の実を食べ、別のところでフンをすると、フンから植物が発芽する。いわゆる種子散布を行っているのだ。そんな豊かな森から採れる植物は、現地の人々の生活や経済にとっても重要な存在となっているが、その絶妙なバランスも、焼畑などによる森林減少や密猟の前では風前の灯だ。

記事では、生物研究者である佐藤先生がマダガスカルの地に足を踏み入れ、自然と人々との関係性を見出していく過程にも触れられていて興味深い。豊かな自然を守ることと人々の暮らしを豊かにすることを両立させる道について、示唆を与えてくれる内容となっている。

野生動物に会いに行く。ワイルドライフ・ツーリズムの可能性と課題

自然保護と地域の経済発展を両立する。この難しい課題へのひとつの答えが「ワイルドライフ・ツーリズム」、すなわち野生動物との出会いを目的とした観光産業だ。日本ではあまり馴染みのない言葉だが、立命館アジア太平洋大学の笛吹理絵先生によると、世界的には確立した観光形態なのだそうだ。和歌山県など太平洋沿岸で行われているホエールウォッチングや、餌付けした野生のニホンザルを観察できる高崎山自然動物園(大分県)などもこれに当たると聞くと想像がつきやすいだろうか。自然や野生動物を保全しながら観光資源として活用することで、地域の経済発展にもつなげることができる、いわば一石二鳥のサステイナブルな観光産業といえる(ちなみに、上述の佐藤先生の記事では「エコツーリズム」という言葉で同様の取り組みに触れられていたが、こちらは地域の自然や歴史文化などの魅力を観光客に伝え、保全につなげる取り組みのこととされている)。

もちろん、健全に運営するのは簡単なことではない。記事の中では、人と動物との距離が近づきすぎることによる弊害や、望ましい管理のあり方について触れられている。海外から多くの観光客が訪れる日本に暮らす私たちも、ぜひとも知っておくべきテーマではないだろうか。

「エキゾチックアニマル」ブームの裏で……

続いても京都大学からの記事を紹介しよう。コンゴ民主共和国でボノボ(チンパンジーと近縁の類人猿)を研究する徳山奈帆子先生は、現地の野生動物の保全に取り組むとともに、ペットとして流通する珍しい野生動物、いわゆる「エキゾチックアニマル」にまつわる問題にも警鐘を鳴らす。

ひとつは密輸の問題だ。小型霊長類などの野生動物はペットとして高値で取引されるため、生息地での密猟や密輸があとを絶たないという。ショッキングなのは、こうした野生生物の一大マーケットとして日本がWWF(世界自然保護基金)から名指しで批判されているということだ。さらに、飼育下での動物福祉の問題もある。犬や猫のように長い時間をかけて家畜化されてきた動物とは違い、野生動物を一般家庭で健康に飼育することはほぼ不可能だと徳山先生は言う。

人間の感情中心の「動物愛護」と、動物の心身の健康を科学的に追求する「動物福祉」は似て非なるものだ、という徳山先生の指摘について、ペット大国の日本に住む私たちはよく考えてみる必要がありそうだ。

動物園の人気者、平和のシンボル……数奇なる野生動物、パンダ

最後は少し切り口を変えて、人間と多面的な関わりをもつ野生動物についての記事を紹介したい。東京女子大学の家永真幸先生が語るのは、パンダから見る中国や台湾の政治史だ。中国が関係を強化したい相手国にパンダを贈る「パンダ外交」は有名だが、その歴史を戦前まで遡ってみると、中国でもほぼ無名だった野生動物が欧米に持ち帰られて人気を博したことで、外交上の価値が「発見」された過程が見えてくる。愛くるしさで人々を魅了する平和のシンボル、友好の証。これらはある意味、国際政治の中で作られたイメージであり、さらに言えばとても人間中心的な見方だ。もちろん、パンダという動物自体、とても魅力的であることは確かなのだが。

記事では、ワシントン条約の保護対象になってからのパンダをめぐる環境の大きな変化や、現在の中国と東アジア情勢を見通す「窓」としてのパンダの見方も紹介されていてますます興味が尽きない。

動物を通した視点で見ると、私たちがいかに人間中心の世界を生きているかということが浮き彫りになってくるように思う。自然保護や環境保全という言葉に対して、進歩と逆行する少々野暮ったいイメージをもつ人もいるかもしれない。しかし、自然界の大きな関係性のなかで人間をとらえ直せば、あまり傲慢な振る舞いはできないはずだ。

※「キュレーション記事」は、フクロウナビで紹介されている各記事の内容をもとに書かれています。紹介する記事のなかには、記事が執筆されてから時間が経っているものもありますのでご注意ください

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