毎日の一杯がもっと美味しくなる。コーヒーの奥深さに引きこまれる記事
フクロウナビ編集部
コーヒーを飲まないと一日が始まらないという人は多い。人類にとって、もしかすると水に次いで重要な飲み物かもしれないコーヒーは、大学でもよく研究者の考察の対象になる。今回は、その歴史から化学まで、あなたが知らないであろうコーヒーのあれこれを教えてくれる記事を紹介する。
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フクロウナビ編集部
日々さまざまな分野の研究成果や学術知に触れるフクロウナビ編集部員たちが、それぞれの興味や関心をもとにテーマを立てて、おすすめしたい記事を紹介します。
純喫茶の“エモさ”は建築にあり?
コーヒーを飲む場所といえば、カフェ。最初に紹介する近畿大学の記事は、日本独特のカフェの形態である、純喫茶に注目する。「古臭い」「入りにくい」というネガティブなイメージを持つ人も多いはずの純喫茶だが、なんと近年Z世代の若者の間で“エモい”と人気になっているそうだ。
自身も純喫茶好きという学生ライターからの質問に答えるのは、建築設計や近現代建築史が専門の高岡伸一先生だ。高岡先生は、オーナーの熱量が詰まった濃厚な空間デザインや高度経済成長期の時代精神が、いまの若者に“エモさ”=何とも言えないエモーショナルな気持ちを感じさせているのではと推測する。「純」喫茶という名称が生まれた理由も実に興味深い。
「純喫茶アメリカン」を筆頭に、高岡先生が矢継ぎ早に教えてくれる大阪の名店たちは、写真からだけでもその独特な雰囲気が伝わってくる。地元の人も府外在住の人も、ぜひ足を運んでみてほしい。
コーヒーはイスラームなくして語れない
欧米の飲み物というイメージが強いが、実はコーヒーはイスラーム文化圏を通じて世界中に伝播したものであり、中東社会において古くから重要な役割を果たしてきた。
イスラーム美術史を研究する龍谷大学の林則仁先生は、コーヒーの歴史にも詳しい。イスラーム社会でコーヒーが飲まれ出したのは15世紀のイエメンで、神秘主義の「スーフィズム」教団がいわばトリップ状態で修行するために用いたそうだ。16世紀以降に都市部で「コーヒーハウス」が生まれ、男たちが足繁く通いだすと、宗教的あるいは政治的理由からコーヒー、またはコーヒーを飲む人を弾圧しようとする勢力が強まり、カイロではコーヒーハウスが襲撃される事件まで発生した。コーヒーの歴史はなかなか物騒である。
林先生は調査でエジプトやトルコなどをよく訪れるそうで、「ジェズヴェ」という専門の器具を使って淹れるトルココーヒーの飲み方や、甘いお菓子「ロクム」を添えて人とおしゃべりしながら飲むというトルコのコーヒー文化も紹介している。コーヒーは、いまでは平和なひとときの象徴だ。
クロロゲン酸と貧困とノルウェー
次は、さまざまな角度からコーヒーに迫った立命館大学のセミナーを紹介しよう。
最初の登壇者である滋賀医科大学の旦部幸博先生は、焙煎具合によってコーヒーの酸味と苦味のバランスが変わっていく過程を、クロロゲン酸や有機酸などを引き合いに化学的に解説する。実は旦部先生、専門は微生物学・腫瘍学であって、コーヒーは趣味として研究しているという。大学というのは楽しい場所である。
次に登壇したのは、株式会社ミカフェート代表取締役社長で日本サステイナブルコーヒー協会理事長でもある、José.川島良彰さんだ。1975年にエルサルバドルでコーヒー留学し、コーヒー生産国での農園開発や栽培指導にも携わる……というただならぬ経歴と情熱を持つ川島さんは、中南米やアジア、アフリカでコーヒーを栽培する人々が貧困などの社会的問題に苦しんでいる実情を自身の目で見てきたという。自分がこのコーヒーを飲むことによって、作ってくれた人が不幸になっていないだろうか――川島さんの話を聞くと、そんなことを考えざるを得ない。
最後は、オスロ在住の北欧ジャーナリスト・フォトグラファーである鐙(あぶみ)麻樹さんが、ノルウェーのコーヒー事情を紹介。ノルウェーでは政治談議とコーヒーが強く結びついていて、なんと政治思想によって好むコーヒーの種類が分かれるという。「このブラックコーヒー野郎!」「カフェラテ派はこれだからダメだ」「オーツミルクでも飲んでろ」みたいな罵倒がノルウェーでは日常茶飯事……だとしたらちょっとおもしろい。
なぜカプチーノの泡はすぐに消えないの?
最後に取り上げるのは、カプチーノの泡に注目した東京都立大学のこちらの記事だ。
食器用洗剤やシャンプー、シャボン玉、はたまたビールや料理中の吹きこぼれまで、私たちの日常生活にはさまざまな「泡」が存在する。ところが泡のメカニズムはまだ謎に包まれており、企業は製品開発の際に「泡をつくりたい」、はたまた「泡をなくしたい」と困っているのだそう。世の中なんでもわかっているように見えて、実はまだ解明されていないことだらけである。
そんな泡の謎に迫ろうとしているのが、非平衡物理学を専門とする栗田玲先生だ。カプチーノの泡がなかなか消えないのは、微粒子状のコーヒー豆の成分のおかげだそう。同様の原理は、ビールの泡が長く保たれる現象にも、逆にシャンパンの泡がすぐになくなる現象にも一役買っているのだとか。「物理学は日常に潜む様々な『不思議』を解明する点に醍醐味がある」という栗田先生の言葉には大きく頷かされる。
コーヒーを知るということは、この世界を知るということだと思う。この記事がきっかけで、あなたの毎日の一杯がもっと美味しくなればうれしい。
※「キュレーション記事」は、フクロウナビで紹介されている各記事の内容をもとに書かれています。紹介する記事のなかには、記事が執筆されてから時間が経っているものもありますのでご注意ください