音声コミュニケーションと記録の過去・現在・未来を旅する記事
服部 貴美子/広報戦略ライター・ポッドキャスター
スマホでメッセージを送り合い、思い出の動画をシェアすることが当たり前の時代。映える写真、刺激的な動画、スタンプひとつの手軽な返信に慣れきってしまい、「声で伝えること」の真価を忘れてはいないだろうか? そこでポッドキャスターの立場から、4つの記事をピックアップした。奇想天外な動物実験、発音を「可視化」する効果、方言が織りなすコミュニケーション史、ラップの韻につながる遊牧民のシャーマニズムまで、声というツールの歴史から音声コミュニケーションを問い直す糸口をみつけてほしい。
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服部 貴美子
神戸女学院大学卒業後に野村證券入社。法人部門でIPO企業の発掘に携わる。1997年からフリーランスとなり、現在は企業・行政の広報戦略パートナーとして取材や執筆活動を続けている。地元神戸の仲間と共に運営するポッドキャスト「コベラバ@ナイト」の土曜パーソナリティー。
科学で遊び学ぶ「声」の正体
「声」はコミュニケーションの重要なツールだが、なぜ人はそれぞれ違う声を持ち、どうやって音を出しているのだろう。京都大学の生物学者・西村剛先生(現在は大阪大学所属)が参加するチームは、ワニにヘリウムガスを吸わせるというユニークな実験で、2020年に「イグ・ノーベル賞」を受賞。生物が発するのが「音」なのか「声」なのかを判別し、「音声によるコミュニケーションの起源」を探った。
本記事は、声帯で震わせた空気を共鳴させて出す「声」がヘリウムガスによって変わってしまう物理的なメカニズムとともに、そこから見えてくる言葉と「コミュ力」の関係について解説している。さらに、テナガザルがソプラノ歌手のような高度な音声操作をしていることや、現代のLINEスタンプでのやりとりがサルのコミュニケーションに近いという考察も展開されている。笑いながら楽しく読み進めるうちに、「声」の進化的意味を考えるヒントがみつかるだろう。
「発音」を“聴く”のではなく“見る”技術
物理的な声の仕組みがわかったところで、次は音声によって繰り出される「言葉」の習得方法について考えてみたい。
みなさんは、英語の「R」と「L」など、日本語と異なる音がネイティブのように発音できず、もどかしい思いをしたことはないだろうか? 音声学と音韻論を専門とする広島大学の山根典子先生は、耳で音声がしっかりと聴き取れていても、口の中の動きが“ブラックボックス”化していると、発音が再現できないのではないかと考えた。そして、舌の動きや呼気の流れなど、「聴く」だけではわからなかった情報を可視化することで、言語学習の困りごとを解決しようと試みている
将来的には、語学学習ツールにとどまらず、聴覚障害のある方への支援など、コミュニケーションのバリアフリー化にもつながる可能性を秘めたテクノロジーだ。
「オモロイ大阪人」は虚像(フェイク)かも!?
コミュニケーションの良し悪しを左右するのは「技術」だけではない。「文化」や「空気感」も重要である。初対面のとき、私が神戸在住だと自己紹介すると「おしゃれですね」と言ってくれた人が、実は大阪生まれだと告げると「だから面白いんだ」と修正されてしまうのは、都市イメージのなせるわざであろう。
ところが、 日本近現代文学を専門とする追手門学院大学の佐藤貴之先生によると、この「大阪=笑いの都」というブランドの歴史は、意外と浅い。本記事では、江戸時代から近代にかけての文学史上の記録を紐解きながら、「笑いの都」というパブリックイメージが形成された過程を追っている。そして、1930年代のラジオの普及を発端に、聴取者にわかりやすく伝える言葉として「標準的な大阪弁」が意図的につくられたと解説している。
私たちが「方言」から無意識に抱く都市イメージに刻み込まれた戦略に気づくと、マスメディアやインターネットから流れてくる会話が、いままでと少し違って聞こえてくるかもしれない。
草原に響くヒップホップに宿る「憑依」の精神
最後は、音楽の話。即興ラップで言葉をぶつけ合って表現を競う「ヒップホップ」の深層を覗いてみよう。国立民族学博物館の文化人類学者・島村一平先生は、西洋から輸入された音楽スタイルに見えるヒップホップが、近年モンゴルにおいて大流行していることに注目。「シャーマニズム」の専門家として、韻を踏む語りが遊牧民の伝統文化と結びついているのではないかとフィールドワークを進めた。
島村先生によると、ラッパーが即興で言葉を紡ぎ出し、聴衆を熱狂させる姿は、かつてトランス状態で神霊の言葉を伝えたシャーマンの営みと重なるのだという。つまり、「声」というメディアを通じて、過去の精神が現代のビートへと形を変えて立ち現れているのではないか?というわけだ。また、韻にもさまざまな種類があり、ダジャレだと笑い飛ばせない、高い技法を駆使した表現だと解説している。
文化人類学的な視点でヒップホップを読み解くこの記事は、遊牧民の伝統的な口承文芸である韻と、経済格差などの社会問題が融合したことで、影響力のある声が生まれたプロセスを見せてくれる。
「声」は、単に音を伝える道具ではない。 物理的な空気の振動である「音」と「声」との違いに始まり、出したい声を発するための可視化技術、メディアによってつくられた言葉の文化、そして流行の音楽に蘇る遊牧民の魂まで、さまざまな研究にふれることで、音声が身体的な機能であり、社会的な演出であり、そして私たちが生きた証そのものでもあることが見えてきた。手軽にログが残せる時代だからこそ、一度立ち止まって、自分の「声」がどのように届き、誰にどんな影響を与え、どのように残っていくのかを、考えてみるのもいいのではないか。
※「キュレーション記事」は、フクロウナビで紹介されている各記事の内容をもとに書かれています。紹介する記事のなかには、記事が執筆されてから時間が経っているものもありますのでご注意ください



