私たちは何を「幸せ」と感じるのか。言葉にしにくい概念を考える記事

フクロウナビ編集部

「幸せ」とは何か――古くから人々が繰り返し問うてきた永遠のテーマだ。達成や成功に喜びを見いだす人もいれば、何気ない日常の中に安らぎを感じる人もいる。人の数だけ「幸せ」の形があり、その輪郭は常に揺れ動いている。だからこそ、明確に言語化することは難しい。しかし、人生をより豊かにする上で「幸せ」について考えることは重要だ。そこで、心理学や哲学の視点から、幸せを多面的に考える記事を4つ紹介する。

記事をおすすめした人

フクロウナビ編集部

日々さまざまな分野の研究成果や学術知に触れるフクロウナビ編集部員たちが、それぞれの興味や関心をもとにテーマを立てて、おすすめしたい記事を紹介します。

信頼できる相手とのハグが「幸せ」をもたらす

スキンシップや人とのつながりによって脳内で分泌されるオキシトシンは「幸せホルモン」といわれている。では、相手は誰でも良いのだろうか。

海外にはハグや握手といったスキンシップを伴う挨拶が主流になっている国があるが、この挨拶で特別な幸福感が得られるのは、家族や恋人など「親しい相手」に限られるという。そんな気づきを与えてくれたのが、近畿大学の学生がハグの効果やコミュニケーションについて世界各国の留学生に取材をした記事だ。さらに、臨床心理学を専門とする、同大学総合社会学部の本岡寛子先生は、人間が本来持っている「肌触り」や「温かみ」は安心感につながるが、あくまでも相手との関係性が重要だと話している。つまるところ「幸せ」はハグや握手といった特定の行為に依存するものではなく、安心して心を通わせられる“絆”の中に存在するのかもしれない。

スイーツから生まれる幸福感は社会に波及する

「幸せ」をもたらすものは、人との絆や温もりに限らない。次に注目したいのは、甘いものを食べたときのポジティブな感情を解明する「スイーツ心理学(R)」に関する記事だ。帝塚山学院大学 人間科学部心理学科の大本浩司先生が2018年に設立した、日本初の学問領域である。

甘いものを食べると、脳は喜びやリラックスをもたらす神経伝達物質を分泌する。「スイーツ心理学(R)」とは、そうした脳科学的な視点ではなく、心理学の領域でスイーツの効果を明らかにしていくというもの。食べるだけではなく、パッケージやコミュニケーションツールとしてスイーツをとらえている点が非常にユニークだ。記事内では、地元の老舗和菓子店と商品を共同開発し、地域に活気をもたらした例も取り上げている。スイーツから生まれた幸せが、社会やビジネスに広がっていく。「幸せ」は、単なる個人の消費だけにとどまらないことを教えてくれる。

「自分」を主軸とすることで見えてくる「幸せ」

スキンシップによって得られる「幸せ」、そしてスイーツが社会へ波及する「幸せ」は、いずれも他者や外部との関わりを伴うと言える。

関西学院大学 文学部総合心理科学科の一言英文先生は、「他者とのつながり」から生まれる安心感、すなわち「協調的幸福感」に「幸せ」の形があると話す。「自分は一人ではない」と思えることが「幸せ」を感じさせてくれるのだ。しかし、SNSの浸透は「つながり」の量を増やしている反面、孤独感や他者との比較を助長しているとも指摘。そこで意識したいのが、幸福感の捉え方だ。一言先生いわく、心理学では一般的に「本人がどう感じているか」に主眼を置くのだという。他人がSNSで発信するキラキラとした生活を見て「どうせ自分は……」と、みじめな気持ちになったことはないだろうか。しかし、人の境遇と比べたところで得られるものはそんなにない。そういった外からの情報に惑わされるのではなく、「自分」を主軸にする。その上で、安心できるつながりを大切にすると「幸せ」の答えが見えてくるのかもしれない。

困難や苦しみを乗り越えた先にあるもの

私たちは、心地良さや安心感を求める中で「幸せ」を見いだすことが多い。人とのつながりを大切にしたり、甘いものに癒やされたりするのも、そうした気持ちの表れかもしれない。もちろん、それもひとつの答えだろう。しかし、哲学者・ニーチェは「苦しみを乗り越えることにこそ喜びがあり、そこに幸せの基礎がある」と考えた。

龍谷大学 経営学部で宗教哲学を研究する竹内綱史先生は、記事の中で、ニーチェが生涯をかけて格闘してきた多くの問いは、現代人が抱える問題と本質的に同じではないかと論じている。現代社会では、常に成果や努力を求められる。挫折をしてしまうと自分の存在価値を疑いたくなることもあるだろう。しかし、ニーチェが説く「幸せ」とは、「挫折を乗り越え、苦しさをエネルギーに変える力」なのだと思う。こうして自分自身の弱さや限界を受け入れ、その先へと乗り越えたときに、本当の「幸せ」が待ち受けているのではないだろうか。それは、日々のつながりや安らぎで感じる喜びとはまた異なる、人生の根底を支えるような静かな充足感なのかもしれない。

4つの記事を通して見えてきたのは「幸せ」は外から一方的に与えられるものではなく、自分の感じ方次第で形を変えるということ。大切な人とハグをしたり、スイーツを味わったり――そんな小さな瞬間にも「幸せ」はある。そして、ときには苦しみさえも、あとから振り返れば「幸せ」を生むきっかけになるのかもしれない。

※「キュレーション記事」は、フクロウナビで紹介されている各記事の内容をもとに書かれています。紹介する記事のなかには、記事が執筆されてから時間が経っているものもありますのでご注意ください

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