教育×遊び=エデュテイメント!子どもの学びについて考える記事
正頭 英和/立命館小学校 教諭
「エデュテイメント」って知っていますか?教育(エデュケーション)と遊び(エンターテインメント)を足した造語であるエデュテイメントは、楽しみながら学ぶ機会を提供し、「勉強は楽しい」という体験を積ませることで、子どもたちの学びをサポートしようとする概念です。言葉自体は耳慣れないかもしれませんが、このコンセプトは私たちの身近にあふれています。今回は、「エデュテイメント=楽しみながら学ぶ」とはどういうことかを、3本の記事を通じて紹介していきます。
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正頭 英和
1983年大阪府生まれ。株式会社Edutainment Education代表取締役。小学校教員としては日本で初めて「教育界のノーベル賞」と呼ばれる「Global Teacher Prize 2019(グローバル・ティーチャー賞)」のトップ10に選出される。現在は小学校での指導に加え、エデュテイメントプロデューサーとして、企業と連携し楽しく社会のしくみなどを学べる教材の開発を行う。著書に『世界のトップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)等多数。
ゲームは子どもにいい!?
「ゲームは子どもによくない」と考える保護者の方々は多いでしょう。確かに、子どものビデオゲームのし過ぎは社会的にも問題視されています。でも、実はゲームは教育に活用できるということを、明治大学政治経済学部のヨーク・ジェームズ先生はアカデミックな知見から解説しています。
ヨーク先生の言うとおり、「ゲームの本質である、なにかを解いたり、課題をクリアすることとは、要は、学び」です。また、ゲームをプレイすることで身につくスキルや知識を「ゲーミング・キャピタル」、つまり、その子の資本として捉える考え方もあります。親や学校の先生は、ゲームに対してもっと関心を向け理解を深めなければいけないと、授業にゲームを取り入れているヨーク先生は話します。 包丁は、扱いを間違えれば人を傷つける凶器になりますが、正しく使えば生活を便利にする道具になります。ゲームも、子どもに悪い影響を与える可能性はあるものの、正しい知識を持ちうまく活用すれば、子どもの学びを支える最高の道具になるのです。
エデュテイメントの元祖、すごろく
エデュテイメントという言葉は1960年代頃に登場しましたが、その概念はもっと古くからあったということを、東京学芸大学附属図書館のデジタルアーカイブ「東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ」は教えてくれます。
教育や教員養成の分野で日本をリードしてきた東京学芸大学は、平安末期以降の教科書「往来物」や数百年前の紙の知育玩具「おもちゃ絵」など、学びと遊びに関する日本の様々な資料を所蔵し、オンラインで公開しています。
特に面白いと思ったのは「絵双六(すごろく)」です。僕は、人気ビデオゲーム「桃太郎電鉄(桃鉄)」の教育版の制作に関わり、子どもたちが遊びながら地理を学べる学校教材を開発しました。エンターテインメント(遊び)をエデュケーション(学び)の側に寄せる、これまでにありそうでなかった取り組みとして評価されていますが、アーカイブにある「東京名所遊覧双六」はまさに、遊びながら東京の地名を覚えられる教材。エデュテイメントの起源はすごろくだという見方があるのも納得です。
不自由な遊びがクリエイティビティを引き出す
最後に、千葉大学デザイン・リサーチ・インスティテュートの原寛道先生の記事を紹介します。子どもたちと一緒に公園で遊びながらその様子を観察し、オリジナルの遊具をデザインしている原先生。僕はいつか公園をつくりたいと思っているので、原先生の活動はものすごく面白いと感じました。
原先生も携わる千葉大学墨田区サテライトキャンパスの「あそび大学」は、町工場から譲り受けた廃材を使って、子どもたちが自由かつ主体的に遊べる場所だそうです。児童たちと日々接していて僕が感じるのは、「クリエイティビティを引き出すのは、自由ではなくて、不自由である」ということ。皆さんも、「今日の天気を表現してください」と急に言われたら考え込んでしまうかもしれませんが、「今日の天気を五七五で表現してください」と言われたら面白い言い回しが湧いてこないでしょうか。あそび大学は、「工場の廃材だけで遊ぶ」という制限があるからこそ、子どもたちの想像力を刺激するのだと思います。
「遊び」は「学び」に比べて軽視されがちですが、「遊び」もひとつの学問として成立するほど奥深いものであるということが、この記事からよくわかります。
インターネット上でさまざまな娯楽を無限に楽しめる時代になり、子どもたちは「ネタバレ」されていることにしか興味を示さなくなってきました。楽しいことが保証されたコンテンツが簡単に手に入るため、わざわざ苦しい思いをしたり、「やってみたら楽しくなかった」というリスクを冒したりしてまで、未知のものにチャレンジする必要はないからです。
「学び」の本質は、知らないことを知るということ。だから、未知のものを避けたがる今の子どもたちにとって、勉強のハードルはすごく高くなっています。でも、勉強って楽しいじゃないですか。ちゃんと勉強を進めていけば、その楽しさは必ずわかるはずです。「とりあえずやってみる」のハードルを下げ、子どもたちに学ぶ楽しさを伝える方法として、今、エデュテイメントが注目されています。
※「キュレーション記事」は、フクロウナビで紹介されている各記事の内容をもとに書かれています。紹介する記事のなかには、記事が執筆されてから時間が経っているものもありますのでご注意ください